本の書き手として自分を守るために気をつけていること

ベストセラー作家というわけでもないのですが、曲がりなりにも本を書く仕事をする側として、感じることを書いてみました。
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オフィスにて撮影。DSC-RX100M3

本を書く仕事のしくみ

フリーランスやひとり社長が、仕事を受ける場合、次のようなことを考えます。

・その仕事は自分がやるべきものか(他の人でもいい仕事ならやる必要はない)
・どのくらいの時間がかかるか?納期までにこなせるか?
・その仕事内容に対して十分に貢献できるか

そして、
・報酬はいくらか?
が重要です。

本を書く仕事の場合、この報酬を度外視するケースもあります。
・こちらが制作費を負担して本を書く、自費出版、企業出版。
・制作費を負担して、他人が書いた本に自分の名前を載せる共同出版
といったものに比べると、いくらかでも報酬をもらえる方がいいのかもしれません。

しかし、「本を書く」ことを特別視してはいけません。
「仕事」の1つとしてとらえて、報酬も考慮に入れるべきです。

本を書く仕事の報酬は、「印税」という形で支払われます。
通常は、

本を書く報酬=本の価格×印税率×部数

で計算されるものです。

さらには、
・計算のもととなる本の価格が消費税込みか消費税抜きか
・印税率が、何パーセントか(6%〜10%。実績や重版部数により変わることも多いです)
・部数はどれだけ刷ってもらえるか(刷った部数ではなく売れた部数の場合も多いです)
・その報酬はいつ入ってくるか
などといった要素があります。

本を書くメリットは確かにある・・けど

本を書く報酬=本の価格×印税率×部数

で、
・本の価格が税抜1,500円
・印税率が10%
・部数が3,000部で刷った部数で計算
だと、1,500円×10%×3,000部=45万円です。

一見よさそうですが、本を書くには数ヶ月かかり(ときには1年)、そのチェック(通常2回チェックします)も含めると、かなりの時間を割きます。
対価として見合っているかどうかというと微妙なところです。

さらに、本の価格、印税率が下がり、部数が減れば、もっと報酬は減ります。

・本の価格が税抜1,500円
・印税率が7%
・部数が3,000部で刷った部数で計算
だと、31万5,000円です。

出版社によって支払い条件は異なり、本が出た月の月末に入金されることもあれば、半年後、1年後というところもあります。

こうなってくると、なかなか厳しいです。
通常の仕事をしていた方が、売上的にも資金的にも楽といえます。

といっても、本を書くメリットは確かにあり、捨てがたいです。
本を出すことにより知っていただけた方も多いですし、本を出してなければ会わなかったであろう方もいます。
しかし、投下する時間、労力はかなりのものですし、その時間に別の仕事をしていたらもっと収入が上がるかもしれません。

今後、出版業界として、印税率が下がり、部数が減るようになれば、「本を書かない」という選択することも増える可能性があるでしょう。

ようは書き手がいなくなるわけです。

書き手が陥ってはいけない出版の罠

出版の古い慣習やしくみも変えなければいけないでしょうし、電子書籍という新たな波も来ています。
本を作り、販売できるのは、多くの方の力があってのことだと重々分かっていますが、書き手にだけ負担を強いるのは、限界があるでしょう。
印税率が10%であったとしても、それが適性なのかどうかは疑問があります。
さらに印税率が下がる、支払が遅い、実売部数で計算する(こちらは部数は分かりません)、返品リスクを書き手がかぶるなどといった条件があると、かなり厳しいです。
「出版社と著者でリスクを折半させてください」と強くいわれると、「出版社側でもまだまだできることもあるのでは?」と思ったりもします。

しかし、そういっててもしかたがないので、書き手としては、自分で自分の身を守らなければいけません。
私は次のようなことを気をつけています。

出版だからといって安易に引き受けない

書く条件にはある程度こだわりましょう。
通常の仕事と同じように、本を書く仕事として、その報酬、支払条件などをきちんと確認すべきです。

出版を断る基準も大事で、
・編集者さんに疑問を感じた
・印税の支払条件があまりに遅い
・完全二番煎じの本の企画だった
・とある会計ソフトを全般的にすすめる本の企画だった(私は全面的に支持していないもの)
・執筆途中に編集者さんと連絡がつかなくなり、信頼関係がなくなった
といった事例で断っています。

一方でお問い合わせいただいて企画を出したけど、その後連絡がいっさいなし(企画に落ちたのかもしれませんが)、出版が決まって条件も決まったのにその後連絡なしといった不思議な案件も。。。
こういった連絡がとだえる系は、無理しておいかけてもいいことありません。

著者名が変わってもわからないような本は書かない

本をさらりと書いたら、さらりとしか伝わりませんし、さらりとしか売れません。
(才能がある人はさらりと書いてベストセラーになるのでしょうが)

自分の全力を出し切らないと、通用しないでしょう。
私は、基準として、「著者名」が変わってもわからないような本は書かないようにしています。
自分じゃなくてもいいのでは・・・?と思うものは書く必要がありません。
そういったオファーが来た時点で負けです。

自分だからこそ書ける本を書きましょう。

出版コーディネーターに注意する

本を書きたい思いがあっても、出版コーディネーター(出版を目指すノウハウを提供、出版社とつなげてくれるなど)には注意しましょう。
もちろんすばらしい方はたくさんいて、友人もいます。
ただ、一方で、そうではない人も多いです。

出版のノウハウを学ぶのは大事ですが、出版のチャンスを自分でつかむ努力もすべきと考えています。
私は企画を持ち込んだことはありません。
条件面でお断りしたものも含めて、すべてブログやHP経由で問い合わせていただいています。
常に書き手を探している状態ですので、こちらから発信して見つけてもらうことは十分に可能です(発信が苦手、発信ができないという方はコーディネーターに頼むべきです)。
むしろそうした方がいいオファーをいただけます。

担当の編集者さんとの信頼関係を重視する

出版は、自分が黙々と書けばいいイメージですが、決してそうではありません。
重要な要素の1つには、担当の編集者さんとの信頼関係があります。
企画、執筆、校正(チェック)、販売などずっと二人三脚で進むものだからです。
合う方でないと続きません。

バックエンドを期待しない

本を出すとメリットはありますし、それをきっかけに仕事が来る可能性があります。
ただ、期待しすぎてはいけません。
期待しすぎると、書く条件にこだわらなくなります(本を書く自体で収入が少なくてもいいと考えてしまう)。
また、本に宣伝要素が多くなりがちで、宣伝要素の高い本は内容も薄く、おもしろくない本も多いです。

「本を書き、知識やスキルを提供する」一方で、「本に知識やスキルを書きすぎると仕事が減る」という相反する事情があります。

私は前者の立場で書き、むしろ仕事を減らすために本を書く主義です。
本を読んで解決すること、ブログを読んで解決することなら、それにこしたことはありません。
本だけで伝わらないことを別のサービスで伝えるというスタンスの方が楽です。

自費出版、共同出版をしない

お金を書き手が負担する自費出版、共同出版はやりません。
次の続く書き手のためにも、極力やらないようにしましょう。
こういったものに頼らなくても本を書ける人は、多少なりともお金を払う余力があります。
ただ、そういう方がお金を払うと、書き手側の立場はますます弱くなるのです。
自費出版、共同出版が悪いというわけではなく、次の世代の書き手を守るために、頼らない方が好ましいと思っています。

まとめ

この流れで行くと、書き手の条件はますます悪くなり、ひょっとすると「お金を払って本を書く」という時代になる可能性もあります。
そうなると、お金に余裕がある方が書いた本、営業・宣伝目的で書いた本しか残らなくなるのではないでしょうか。

1人1人の書き手がこだわることで、いい本がうまれる可能性も高まりますし、次に続く書き手のためにもなり、それが読み手のためにもなり、出版社のためにもなります。
安易な出版が続くと、書き手にとっても読み手にとっても出版社にとってもいいことはありません。

 

 





【編集後記】

昨日、東京駅から新幹線で新潟へ。
新潟からフェリーで佐渡に入り、登録・説明会・買い物をこなし、その後は、チーム『ポセイ丼』のCFO(Chief Food Director)の羅王のもと、焼肉、寿司、ホテルのご飯と堪能しました。

【昨日の1日1新】
※詳細は→「1日1新」

佐渡
按田餃子 味の要
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いかながも丼